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地上戦と空中戦 ~M&Aの授業

2012年05月13日 06:09

MBA2年目の後期はM&Aの授業を取っていました。今年のバブソンでは、前期と後期で違う講師が、それぞれ中規模企業(売上$10-500M)を買収対象とした授業と、小規模企業($10M以下)を買収対象とした授業を行いましたが、どれも生徒の評判がかなり高い人気授業でした。

私が取った中規模企業対象の授業は、午後と夜に同じ授業が二回行われており、午後は主にフルタイムMBAの学生で50名が受講していた一方で、夜間は受講生15名のうち、半数以上が働きながら通う夜間プログラムの生徒で、全体の過半数が投資銀行や企業のM&A部門で実務経験を持っていました。

   
[授業で使った教科書。私のような素人にも分かりやすかったです]

一方、私は顧客企業の自前での売上向上やコスト削減の支援を、ITを使いつつ行ってたので(実は他にも職歴ありますが)、これまで仕事で企業買収を取り扱ったことはありません。なのでバックグラウンド的には少数。

さて、ここから本題。以前ある人から、M&Aに関わる仕事を2種類に分類しているという話を聞いたことがあります。彼が「空中戦と地上戦」という面白い表現をしていたので、印象に残っています。

空中戦というのは、買収企業のバリュエーション(価値算出)や、買収資金の調達スキームを検討しながら、取引を成立させる仕事を指しています。一方で、地上戦は、企業を買収した後に、その企業を立て直したり、買収した企業に統合したり、新しい戦略を適用したりする仕事を指します。米国では、新たな経営者を外部から雇って、被買収企業の経営を任せることも珍しくありません。

私は自分が企業の成長を支援する仕事をしてきたことや、周囲に買収後統合(Post Merger Integration)に奮闘する人が何人かいるので、地上戦のイメージは沸くのですが、空中戦はだいたいのことを頭で理解しているだけでした。そのため、授業で空中戦を主戦場にしている学生(年齢は20代~40代まで様々)の考え方に触れるのは、非常に新鮮でした。15人の少人数クラスで、グループワーク中心の授業スタイルだったので、なおさら生々しい意見に触れられたのかもしれません。

率直に言うと、やはり自分とは思考回路がかなり違う印象を受けました。

もちろん、実際の買収案件で使われた資料を用いて買収提案を考える授業スタイルといっても、所詮は教室でやってる授業だから本当の取引と違って単純化しているのだ、というのはあると思います。しかし、それを差し引いても、企業を(良くも悪くも)一つの商品として扱い、必要なビジネスや人材と、不要な部分を冷徹に切り分け、価値(=金額)を算出する割切りの良さは、見ていて清々しくすらありました。プロの料理人が魚を捌くように、手際良くざくざく処理して、買収提案の一丁上がり!という感じ。特に、同じグループだった自信満々の若手バンカーは、私にとっては未知の生物で、興味津々で観察していました。

そんな彼らの感覚は、買収したアメリカ企業に送り込まれている日本企業ビジネスマン達の話や、私がビジネスの現場で見てきた風景、そして授業に来た地上戦のスペシャリスト(=送り込まれるプロの経営者・ターンアラウンドマネージャー)の語り口とは、かなり違うように思います。空中戦のパイロットは、あるビジネス・業界を末端まで理解している訳ではないし、空中戦だけを行なってきた人にとって、事業統合や変革のリアリティを理解するのが簡単ではないのは、想像に難くありません。

事業会社が他企業を買収する場合には、経営者が司令官となって、空中戦なパイロットと、地上戦なソルジャーの両方をうまく使うことが大事なんでしょう。しかし、現実には、パイロットを全能の専門家と勘違いして(*)、司令官が指揮権を放棄してしまって、後に投入されたソルジャーが泥沼の戦いへ…なんて話も、珍しくないのだろうなどという思いを馳せつつ、私は授業を受けていました。

講師が、空中戦と地上戦両方で長い経験を持った人だったので、きっと買収に関わるこういう側面を考えさせるように授業がデザインされていたのだろうと思います。学びの多いクラスでした。

(*)この辺は、金融出身の著名ブロガーさん達が、いかにも世の中の仕組みを分かってる風に他業界について書いたものを有難く読む人がいるものの、実は、その業界の人から見たら全然的外れだったり浅すぎる話だったりするのと根が同じように思います。
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