2011年03月25日 00:39
西海岸シリーズ第2弾です。
記憶が新しいうちに、と夜中にこれを書いているのですが、先に明日の組織論の医療機器メーカーのケーススタディの話を少し。この会社は、当初、技術を軸に成功を収めるのですが、社員の創造性を引き出す自由な雰囲気がその一因となっていました。しかし、業界の趨勢が、より顧客のニーズ、それも専門知識がそれほどない顧客のニーズにもきめ細かく対応することを求めるようになってくる。それに対応するには、技術屋だけでない、多様な職種のチームワークが必要になってくるなど組織の変化が必須となるが、当初の成功体験から変化を拒む勢力もいて…というのが下敷きになったストーリーでした。企業の成長に伴って、必要とされる経営陣のスキルや、組織体系が変わってくるというのは、MBAでも頻出のテーマです。
さて、今回のシリコンバレー(SV)ツアーでも、異なるステージの会社の方と話したり、オフィスを訪問したりする機会がありましたので、まだあまり考えがまとまっていませんが、感じたことを書き残しておきます。
まず、本当の創業ステージにある会社の経営者、つまり起業家ですが、SVのITベンチャーを立ち上げる社長が主に考えているのは、EXIT(株式公開or売却)への道筋を意識しながら、早く製品・サービスを開発することと、資金を調達すること、顧客を見つけることです。今の世の中は凄まじいスピードで進んでおり、SVはその最たる場所なので、限りあるリソースをやり繰りしながら、荒削りでもサービスを素早く開発して市場に出すことが重要です。完全なものを求めるのではなく、ベータ版でも良いからオープンにして、フィードバックを受けながら改善していきます。Web系IT業界の人にとっては、常識といえば常識ですね。
これで芽が出た会社がさらに成長していくと、違った種類の試練に直面します。
Twitterを例に挙げましょう。Twitterのサービスは元々、とてもシンプルです。シンプルに世界の「今」を捉える機能が、多くの人の心を掴みました。しかし、Twitterは、急速に拡大したユーザ数に対応するほどの強固なシステム基盤を持っておらず、頻繁に高負荷によるサービス不可("くじら画面")が発生する事態となりました。また、アプリケーションレベルでも、(少なくとも、大企業向けアプリ開発出身の私にとっては)信じられない不具合がしばしば見られました。
昨年あたりは、これらの問題の解決に多くの労力を使ったようで、最近は随分と安定してきたという印象を私も持っています。そして、その間に社員数も急速に増えて、今では400名を超える社員が働いています。5割以上がエンジニアということですが、それ以外の職種の人も増えてきているとのこと。それでも、社員の方のお話を伺っていると、まだまだエンジニア主導で、堅苦しい開発プロセス抜きに、サービス開発を続けているようです。話題に上っている広告によるマネタイズ強化の件も、現場レベルではそれほど気にしていない様子でした。(このあたりの苦労に一端はこちら)

[Twitter:ごく最近になって出来たという名刺(それまでなかった)]
さらに企業規模が拡大したステージにいるのが、Facebook。こちらも社員数は急増していて約2000人になったようです。日本で上場していれば、間違いなく東証一部企業レベルです。
Facebookでは、組織・サービスの急速な拡大に彼らが上手く対応できているのでは、と想像できる2つの話を聞くことができました。一つは、異なる職種のスペシャリストの連携です。お話を伺った米国人ITエンジニアの方は、これまでもいくつかの有名なIT企業で働かれた経験があるのですが、その中には「エンジニア主導が強すぎて、不要な機能の開発など非効率的だった企業」や「マーケティング・プロダクト開発チームが強すぎて、エンジニアは指図されるだけになりがちな企業」もあったようです。かつてのFacebookは、前者に近く、エンジニア主導でサービスを開発してきたようですが、今では様々なニーズと会社の戦略を考慮した、より複雑な目標に向かって、「エンジニアと非エンジニアがちょうど良く連携できていると感じている」とのこと。
そして、組織の拡大と共に経営トップが遠くなり、官僚主義が生まれ…というパターンに陥るまい、としているのでしょう、CEOのマーク・ザッカ―バーグは今でも現場にいます。実際、私が訪問した時にも、見通しの良い平屋のオフィスで、社員と同じスペースで働く彼の姿がありました。先ほどのエンジニアの方も「今でも、マークが席に来て、『ここにバグがあるみたいだから直してよ』って言ってくる」と、フラットな組織に満足されているようでした。毎週、社員がザッカ―バーグに質問する時間もあるそうです。
現在スペースの関係で2つに分かれているSV地区のオフィスも、近日中に移転して1か所に入居する予定です。コミュニケーションを円滑にすることが、主な目的の一つなのは想像に難くないです。

[Facebookのオフィス受付。今のオフィスは全然豪華ではないです(褒め言葉)]
そして最も成功したIT企業(古い響きの言葉ですが…)の一つGoogle。社員数は約2万5000人で、年内にも3万人を超えそうな勢いです。キャンパスと呼ばれるオフィス群はとても広く、移動のために自転車が用意されています。

巨大企業となったGoogleですが、それでもイノベーションを生み出し続けるための仕掛けが用意されています。その一つは有名な20%ルールで、エンジニアは業務時間の20%を自分の好きな活動に充てられるというものです。新しいアイデアは、遊び心から生まれるという考えに基づいた制度です。誰かのアイデアが良ければ、何人かがチームを組んで、それぞれの20%の時間を持ち寄って開発を進めたりされているようです。
Googleのように社会インフラレベルの存在になると、サービスの品質にも一定レベルが求められます。そうして様々な開発ルールや、レビュー、ドキュメントの増加を招き、自由に活動したいエンジニアが離脱してしまう、というのは、SVエンジニアの気質を考えると、容易に想像できます。実際、他社に移る社員も少なからずいるようで、Googleも賃上げ等で引き留めを図っていることがニュースになりました。それでも、お話を伺ったエンジニアの方によると、今でもそれほど悪くない環境ということでした。他社に転職(というより「移籍」の方がしっくりくるかも)するエンジニアについても、「他でもっとやりたいことが見つかったから会社を移るというポジティブなものであって、Googleが嫌になったから出ていくという人は、ほとんどいないように思う」とのこと。日本の大手IT企業との開発プロセスの比較話もしましたが、ドキュメント作成やテストは合理的な判断で最低限に留められており、エンジニアの自由度もずっと高そうでした。
そして、Googleも経営陣と社員が、毎週金曜夕方にビールやワインを飲みながら話ができる場を設けています。
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現時点で成功している企業ばかりを訪問しているのでバイアスのかかった見方になってはしまいますが、それでも今回訪れた会社は、成長に伴うありがちな問題を回避すべく様々な策を講じていることが見て取れて、勉強になりました。
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記憶が新しいうちに、と夜中にこれを書いているのですが、先に明日の組織論の医療機器メーカーのケーススタディの話を少し。この会社は、当初、技術を軸に成功を収めるのですが、社員の創造性を引き出す自由な雰囲気がその一因となっていました。しかし、業界の趨勢が、より顧客のニーズ、それも専門知識がそれほどない顧客のニーズにもきめ細かく対応することを求めるようになってくる。それに対応するには、技術屋だけでない、多様な職種のチームワークが必要になってくるなど組織の変化が必須となるが、当初の成功体験から変化を拒む勢力もいて…というのが下敷きになったストーリーでした。企業の成長に伴って、必要とされる経営陣のスキルや、組織体系が変わってくるというのは、MBAでも頻出のテーマです。
さて、今回のシリコンバレー(SV)ツアーでも、異なるステージの会社の方と話したり、オフィスを訪問したりする機会がありましたので、まだあまり考えがまとまっていませんが、感じたことを書き残しておきます。
まず、本当の創業ステージにある会社の経営者、つまり起業家ですが、SVのITベンチャーを立ち上げる社長が主に考えているのは、EXIT(株式公開or売却)への道筋を意識しながら、早く製品・サービスを開発することと、資金を調達すること、顧客を見つけることです。今の世の中は凄まじいスピードで進んでおり、SVはその最たる場所なので、限りあるリソースをやり繰りしながら、荒削りでもサービスを素早く開発して市場に出すことが重要です。完全なものを求めるのではなく、ベータ版でも良いからオープンにして、フィードバックを受けながら改善していきます。Web系IT業界の人にとっては、常識といえば常識ですね。
これで芽が出た会社がさらに成長していくと、違った種類の試練に直面します。
Twitterを例に挙げましょう。Twitterのサービスは元々、とてもシンプルです。シンプルに世界の「今」を捉える機能が、多くの人の心を掴みました。しかし、Twitterは、急速に拡大したユーザ数に対応するほどの強固なシステム基盤を持っておらず、頻繁に高負荷によるサービス不可("くじら画面")が発生する事態となりました。また、アプリケーションレベルでも、(少なくとも、大企業向けアプリ開発出身の私にとっては)信じられない不具合がしばしば見られました。
昨年あたりは、これらの問題の解決に多くの労力を使ったようで、最近は随分と安定してきたという印象を私も持っています。そして、その間に社員数も急速に増えて、今では400名を超える社員が働いています。5割以上がエンジニアということですが、それ以外の職種の人も増えてきているとのこと。それでも、社員の方のお話を伺っていると、まだまだエンジニア主導で、堅苦しい開発プロセス抜きに、サービス開発を続けているようです。話題に上っている広告によるマネタイズ強化の件も、現場レベルではそれほど気にしていない様子でした。(このあたりの苦労に一端はこちら)

[Twitter:ごく最近になって出来たという名刺(それまでなかった)]
さらに企業規模が拡大したステージにいるのが、Facebook。こちらも社員数は急増していて約2000人になったようです。日本で上場していれば、間違いなく東証一部企業レベルです。
Facebookでは、組織・サービスの急速な拡大に彼らが上手く対応できているのでは、と想像できる2つの話を聞くことができました。一つは、異なる職種のスペシャリストの連携です。お話を伺った米国人ITエンジニアの方は、これまでもいくつかの有名なIT企業で働かれた経験があるのですが、その中には「エンジニア主導が強すぎて、不要な機能の開発など非効率的だった企業」や「マーケティング・プロダクト開発チームが強すぎて、エンジニアは指図されるだけになりがちな企業」もあったようです。かつてのFacebookは、前者に近く、エンジニア主導でサービスを開発してきたようですが、今では様々なニーズと会社の戦略を考慮した、より複雑な目標に向かって、「エンジニアと非エンジニアがちょうど良く連携できていると感じている」とのこと。
そして、組織の拡大と共に経営トップが遠くなり、官僚主義が生まれ…というパターンに陥るまい、としているのでしょう、CEOのマーク・ザッカ―バーグは今でも現場にいます。実際、私が訪問した時にも、見通しの良い平屋のオフィスで、社員と同じスペースで働く彼の姿がありました。先ほどのエンジニアの方も「今でも、マークが席に来て、『ここにバグがあるみたいだから直してよ』って言ってくる」と、フラットな組織に満足されているようでした。毎週、社員がザッカ―バーグに質問する時間もあるそうです。
現在スペースの関係で2つに分かれているSV地区のオフィスも、近日中に移転して1か所に入居する予定です。コミュニケーションを円滑にすることが、主な目的の一つなのは想像に難くないです。

[Facebookのオフィス受付。今のオフィスは全然豪華ではないです(褒め言葉)]
そして最も成功したIT企業(古い響きの言葉ですが…)の一つGoogle。社員数は約2万5000人で、年内にも3万人を超えそうな勢いです。キャンパスと呼ばれるオフィス群はとても広く、移動のために自転車が用意されています。

巨大企業となったGoogleですが、それでもイノベーションを生み出し続けるための仕掛けが用意されています。その一つは有名な20%ルールで、エンジニアは業務時間の20%を自分の好きな活動に充てられるというものです。新しいアイデアは、遊び心から生まれるという考えに基づいた制度です。誰かのアイデアが良ければ、何人かがチームを組んで、それぞれの20%の時間を持ち寄って開発を進めたりされているようです。
Googleのように社会インフラレベルの存在になると、サービスの品質にも一定レベルが求められます。そうして様々な開発ルールや、レビュー、ドキュメントの増加を招き、自由に活動したいエンジニアが離脱してしまう、というのは、SVエンジニアの気質を考えると、容易に想像できます。実際、他社に移る社員も少なからずいるようで、Googleも賃上げ等で引き留めを図っていることがニュースになりました。それでも、お話を伺ったエンジニアの方によると、今でもそれほど悪くない環境ということでした。他社に転職(というより「移籍」の方がしっくりくるかも)するエンジニアについても、「他でもっとやりたいことが見つかったから会社を移るというポジティブなものであって、Googleが嫌になったから出ていくという人は、ほとんどいないように思う」とのこと。日本の大手IT企業との開発プロセスの比較話もしましたが、ドキュメント作成やテストは合理的な判断で最低限に留められており、エンジニアの自由度もずっと高そうでした。
そして、Googleも経営陣と社員が、毎週金曜夕方にビールやワインを飲みながら話ができる場を設けています。
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現時点で成功している企業ばかりを訪問しているのでバイアスのかかった見方になってはしまいますが、それでも今回訪れた会社は、成長に伴うありがちな問題を回避すべく様々な策を講じていることが見て取れて、勉強になりました。
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