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読書メモ:煽り系タイトル3部作 『中国が世界をメチャクチャにする』『暴走する世界』『日本は没落する』

2011年12月30日 09:32

今回の3冊に共通するのは、この3点。

・タイトルが煽り気味
・なぜか家にあって、本棚整理のためにさっと読んだ
・特におすすめではない

ということで、以下、備忘録的な簡易メモです。

まず『中国が世界をメチャクチャにする』。元フィナンシャル・タイムズの北京支局長(イギリス人)が書いた本なのですが、原題は「中国は自転車を漕ぐ象のような存在。経済成長のスピードが落ちたら倒れてしまい、その時は世界を揺らす」という中国人エコノミストの表現から取った『China Shakes the World』。Shake(揺らす)を、「メチャクチャにする」と訳してタイトルにするのは、内容が普通の中国ルポなだけに残念。著者が元東京支局駐在で日本語も学んでいたそうなので、ある程度は理解した上だと思われるのですが、何というか「売らんかな」精神旺盛ですね。著者の主張は、中国経済が大きくなって、世界の経済構造に大きな影響を与えるようになっており、今後も拡大が見込まれるが、中国国内はそのひずみで社会・環境に悪影響が出ており、一党独裁と資本主義経済の矛盾もあるよ、という至ってオーソドックスなもの。特に目新しい話はないですが、具体的なエピソードが数多く含まれているのは良いところ。



次が『暴走する世界』(原題『Runaway World』)。ブレア政権のブレーンとして有名な『第三の道』の著者、アンソニー・ギデンズの本。正直なところ、期待外れ。原書が1999年に書かれているから、当時読めば先見的と思えたのかもしれませんが、少なくとも今の私には響いてきませんでした。もともと私の考え方がギデンズと近いので、刺激を感じなかったのかもしれません。(『第三の道』を学部時代に読んだのはもう10年以上も前なのか…)

  

最後に榊原英資『日本は没落する』。古本屋で200円だったから買ったと思われる本。本人が「決してセンセーショナリズムからこうした題をつけたわけではありません」と書いており、本当にそれくらいの危機感を持たなければいけない、と主張されています。政治・経済・社会・教育で日本が劣化しており、このままでは国際競争に敗れて今の生活水準を維持できない、とよく言えば包括的、悪く言えば総花的に問題点を指摘しています。分析・主張の多くには私も同意なのですが、今の日本の問題は、それをどう実行に移すかという点にあるように思います。彼がインドIT企業ウィプロの社外取締役を務めていたのは、初耳でした(有名な話?)。

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読書メモ:『Imagining India』 ~インド社会経済全般を著名企業家の視点で

2011年12月28日 13:03

インドを代表するIT企業インフォシスの会長ナンダン・ニレカニによる本です。



内容は彼の過去やビジネスによるものではなく、インドの社会・経済について、政治、文化、人口、教育、医療、インフラ、市場、IT等について、包括的に分析と提言を行うというものです。なのでインドについて理解するにはもってこいなのですが、それぞれの分野について、イギリス統治時代~独立直後~70-80年代~90年代以降と丹念に経緯を含めて記述されていて、結果ペーパーバックで500ページ超という結構な長さになっています。

私は正直もう少しコンパクトにキャッチアップしたかったので、今回は軽く流し読みすることにして、今後、必要に応じて該当する章を読み直すことにしました。著者は起業家で後に大企業の経営者となった人なので、ビジネスパーソンとして自分に近い視点でインドの社会経済を俯瞰することができて、良書だと思います。

また、著者の中国への対抗意識の強さも印象的でした。著者の目に移る世界は、超大国アメリカ、成熟し力を失う過程にある欧州、過去に発展の好機を逃した反面教師のラテンアメリカ諸国、先輩新興国のアジア諸国、そして自らと同じ巨大新興国だが先を走る中国、といった感じです(日本の存在感全くなし。インドIT企業へのアウトソーシング発注先でもないから尚更)。最後の中国に対してはライバル意識が強く、何度も比較が出てきます。そして対立軸の中心には、少なくともここまで効率的に経済を推進してきた社会主義国家中国と、非効率にあえぎつつも民主国家であるインドというものです。私は、このあたりの意識がインド一般でどの程度あるのか、興味があります。何となく中国側(特に民間人)としてはそこまでインドに意識はないような気がしますが。

ところでこのナンダン・ニレカニは、トーマス・フリードマンによるグローバリゼーションの代表的著作『フラット化する世界』のタイトルのきっかけとなった「競技場(=世界)は均されている(=フラット)」の言葉を発した張本人です。こちらの本もまだの方はぜひ。

  

未来の市場について考えてみる(その3)

2010年10月17日 12:34

今回はアフリカについて。実は私は過去に合計5か月ほど東アフリカに滞在していたことがあって思入れがある大陸です。

まずは前回エントリの答えあわせから。


問題:2006年時点の中国の一人あたり国民総所得は2010ドルでしたが、それを上回っているアフリカの国はいくつでしょうか?
(A) 0ヶ国 (B) 1ヶ国 (C) 6ヶ国 (D) 12ヶ国 (E) 18ヶ国

正解:(D) 12ヶ国  ※金額順。カッコ内は主な輸出産業

セーシェル(観光)、赤道ギニア(石油)、リビア(石油)、ボツワナ(ダイアモンド)、モーリシャス(観光・繊維等)、南アフリカ(鉱工業+)、ガボン(石油)、ナミビア(ダイヤモンド)、アルジェリア(石油・LNG)、チュニジア(石油)、スワジランド、カーボベルデ(観光)


意外と多かったのではないでしょうか?地下資源や観光がほとんどを占めていますが、それでも収入は収入です。ちなみにガボン以上の7か国は5000ドル、つまり中国の2.5倍を超えています。

また、アフリカを1つの国と見立てた場合、世界第10位の経済規模となります。ちなみにBRICs各国は、中国が4位、インドが11位、ブラジルが12位、ロシアが14位です。(2006年のデータ(国民総所得)で古くて恐縮ですが、大まかな数字はつかめると思います。)成長率の面でも、世界的な不況の影響を受けているとはいえ、先進国を大きく上回る成長を続けています。

そして人口は約10億、これから40年で倍増すると予想されています。国土の大きさもハンパないです。なんと米・中・インド・日本・西欧を合計して、やっと同じ面積です。

■拡大画像■←クリック
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多くのアフリカ諸国の経済はまだまだ発展途上なので、様々な制度面の不備や、政情不安など、ビジネスで進出するのに尻込みする、またはそもそも援助(施し)の対象としか見られていないことも多いと思います。しかし、先進国は既に慢性的に需要不足による厳しい競争環境にありますし、BRICsに代表される新興国も限られた成長市場を求めて競争が激化しています。

それと比較すれば、アフリカ経済はまだまだ競争が緩やかです。そうであれば、他社との苛烈な競争よりも、現地の市場との闘いを選ぶという道もあるはずです。そして、自動車メーカーのスズキが早期のインド進出によって今では5割以上のシェアを獲得しているように、成功すれば先行者利益を享受できます。

日本企業の関心がまだまだ低い中、近年、アフリカへの影響を急拡大しているのが中国です。2003年頃から、地下資源の権益を求めて援助を増大させるとともに、ビジネスの関係も深まっています。アフリカへの輸出額でも、長年1位だったフランスを数年前に抜いて1位になっています。また、コカ・コーラやユニリーバといった、欧米の多国籍企業も本腰を入れ始めています。

一方、日本企業には技術力やブランド力があります。自動車や家電に代表される日本製品の品質はアフリカでも知られています。もう一度、ハングリーになってアフリカに挑む気概さえあれば、勝機はあるはずだと私は思っていますが、みなさんはどうお考えでしょうか?

私は昨年、11年ぶりにケニアを訪れました。前回渡航した時には、地方では「電話屋」に行かないと電話ができないような通信インフラでしたが、今では多くの人が携帯電話で通話しながら歩いていて、話には聞いていたもののその変化の大きさに驚かれました(参考:サファリコム)。興味がある方は、百聞は一見に如かずという通り、とりあえず行ってみるのが一番ですが、まずは以下の本あたりから始めてみてはいかがでしょうか。

■『アフリカ 動き出す9億人市場 (ヴィジャイ・マハジャン著)』

[テキサス大MBA教授による良書。豊富な事例もあり、お薦めです]

■東洋経済のアフリカ特集号


私も引き続き勉強していきたいと思っています。

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未来の市場について考えてみる(その2)

2010年10月09日 13:19

次はクイズのY国=インドです。現時点では人口の多い国=中国であり、確かに世界最大の人口を誇っているのですが、実は20年後、2030年頃にはインドが中国を抜くと予想されています。

中国・インド人口

今回のエントリで注目している生産年齢人口比率もこの先25年くらいは増え続ける見込みです。下の中国と比べてもらうと、ピークが後ろにあるのと、上昇・下落のペースがなだらかなのが分かると思います。つまり、前回ポイントにした人口ボーナスの観点からすると、この先半世紀くらいは経済成長に有利な状態が続きそうです。

インド生産年齢人口

中国生産年齢人口

実際、BRICsという言葉が注目されるきっかけになった2003年のゴールドマンサックスのレポートでも、2015年になる前にGDP成長率でもインドが中国を上回るという予測になっています。(その時点での経済規模は中国の方がかなり大きいので、金額ベースですぐに追い抜くわけではないです)

これだけの根拠をもって、「だから中国よりインド」と言うつもりはありません。そうではなく、海外に生産拠点や市場を求めるにあたって、「成長が見込まれる大国=中国」と単純に考えてしまうのではなく、他の選択肢も検討に値するだろう、ということです。言い換えれば、「本当に中国がベストな選択なのか?」という問いは忘れないように、という話です。

確かに、私を含む多くの日本人にとって、何となく中国の方が地理的にも近く、文化的にも馴染みがあるのは自然なことです。でも、だからビジネスの相手としてより好ましいということにはならないですよね。だからこそ、全ての選択肢を評価できるようになるために、それ以外の地域について意識して知る努力をした方が良いと思い、まずは一冊、と手に取ってみたのが、『ITとカースト ~インド成長の秘密と苦悩』です。

近年のインド経済の成長を牽引してきたIT産業ですが、この本では、インドIT産業が高成長を遂げた理由として、全く新しい産業であったため、インドに深く根付いているカースト制度による職業選択の枠外となり、カーストにとらわれずに優秀な人材を採用できたことを挙げています。バブソンのインド人留学生(IT業界出身)に確かめてみましたが、その通りとのこと。彼によると、他には、組合がない(少ない?)、安価で優秀な人材が豊富、が要因だそうです。

[本としてはお勧め度はそれほど高くないです。薄い新書で十分と思えるくらいの内容]

また、日本との関係においては、新生銀行のシステム開発がインド企業を核にしていたのが有名です(参考記事。この『Saving the Sun』は直接インドとは関係はないですが、この新生銀行再建の話です。(未読)


最後に挙げる『Imagining India: The Idea of a Renewed Nation』は、先のインド人クラスメイトが「インド経済を知るための最初の一冊」として推薦してくれた本です。私もまだ注文しただけで未読ですが、まずはここから理解を深めていきたいです。


次回はさらに遠い大陸、アフリカについて書く予定ですが、予告も兼ねてクイズです。

問題:2006年時点の中国の一人あたり国民総所得は2010ドルでしたが、それを上回っているアフリカの国はいくつでしょうか?
(A) 0ヶ国 (B) 1ヶ国 (C) 6ヶ国 (D) 12ヶ国 (E) 18ヶ国

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未来の市場について考えてみる(その1)

2010年10月03日 03:35

中国経済が好調です。MBAの授業でも躍進する中国経済は重要トピックですし、最近はMITが中国との今後の取り組みについてレポートを発表するなど、世界経済の未来は中国と共にあり、という雰囲気です。そして日本企業が生産拠点として、市場として、日本市場での消費者(旅行者)として中国に大きな期待(依存)をしていることも、最近のいざこざを契機に大きく報じられました。

一方、授業における日本はというと、70年代から80年代にかけて米国市場を席巻し、米国企業・経済を危機に陥れた存在として出てくることが多いようです。私も先日GEのジャック・ウェルチについてのケーススタディがありましたが、80年代におけるGEのタフコンペティター、学ぶべきものがある存在として日本企業が描かれていました。

そんな中、思います。今の中国に対する世界のまなざしは、80年代の日本に対するものとかなり似ているんじゃないかと。そして、80年代にジャパン・アズ・ナンバーワンとまで言われた日本が現在のような状況に陥ると誰が思ったんだろう当時の長期GDP予測はどうだったのだろう、と。きっと当時は近いうちに日本がアメリカを抜くなんて、まことしやかに語られていたのでしょう。日本の社会構造、日本人の気質、全て良い方向に解釈され、世界が脅威に感じた時代。。



そこで問題意識。では、今、中国に対して向けられている視線に、どこか冷静さを欠いたところはないか?もし、そこに落とし穴があれば、そこに依存した者(国・企業)も大きな痛手を受けるはずだが、依存している者はそのリスクをきちんと理解して、他の選択肢と比較した上で、中国依存を選んでいるだろうか?

先に書いておきますが、中国批判ではありません。ある種のdevil's advocateを通じて、より深く理解しようと努めたメモです。バブソンの中国からの留学生もみんな勤勉でナイスガイですしね。

前置きが長くなりましたが、下のグラフは、前回記事でクイズとして出したX国=中国の生産年齢人口が全人口に占める比率です。
中国生産年齢人口
[出所]この記事のグラフは全てWorld Population Prospects -The 2008 Revision (United Nation)からback_slang作成
[注]一般的には生産年齢人口は15-64歳ですが、今回は15-59歳で計算しています。

グラフを見ると一目瞭然なのですが、今年は中国にとって一つの転換点となります。つまり、過去30年以上にわたって続いてきた生産年齢人口比率の増加局面が終わり、今後は減少に転じます。何が起こっているか?過去の増加は、中国政府が採用してきた一人っ子政策の影響で子供の人口が減少したことが原因です。一方、これからの減少は、その反動が原因です。
中国高齢化
これまで30年強にわたって続いてきた生産年齢人口比の増加(多い状態)を「人口ボーナス」と言います。この期間中は、豊富な労働力、少ない社会(扶養)負担、高い貯蓄率による投資原資の確保など、経済発展に有利な要因が揃います。このことは近年の中国経済の高度成長にも大きく寄与してきたと考えられます。

この人口ボーナスは途上国型の「多産多死」社会から、先進国型の「少産少死」社会に人口構成が変化する際に起こるので、中国だけに特別起こっている現象ではありません。ただし、中国においては2つの点で特徴があります。

まず一つ目は「人口ボーナスが発生し、そして消失していくスピードが速い」ということです。少子化が自然な社会の変化によってもたらされたのではなく、政策的に行われたことが原因です。そして、もう一つは「先進国になる前に高齢化が始まる」ことです。

下の2つのグラフを見てください。
日本生産年齢人口推移

韓国生産年齢人口推移
[実は韓国の高齢化スピードもかなり凄まじい]

日本と韓国は、共に高度経済成長期から安定成長期を経て、一人当たりGDPが先進国並みとなった後に、生産年齢人口比率が低下し始めます。一方、中国はグラフの「高原部分」がほとんどなく、一人当たりGDPが先進国並みになる前に比率の低下が始まります。つまり、これまで年を追うごとに人口ボーナスの恩恵が大きくなっていたのが、今後は年々追い風が弱くなっていくことになります。

当然、中国政府はこれを十分に認識しています。人口動態のみが経済成長を決めるわけではないとはいえ、これまでのような豊富で安価な労働力と安い社会福祉コストを背景にした経済成長から、経済の高度化による生産性の向上に成長エンジンの構造をシフトしていく戦略を取るのは必然です。そのために必要なのは、技術であり資源であり優秀な人材です。

人口ボーナスが利いていて、安い通貨を維持でき、他国の積極的な投資が期待できる今後10年から20年の間にこれらを手に入れなければ、二度と(一人当たりGDPにおいて)先進国になるチャンスが失われてしまうかもしれません。高齢化してしまった社会で経済のパイを拡大させるのは容易ではないからです。また、アメリカやEUの一部の国が取っているような移民受入れによる若年・安価な労働力の確保は、中国の場合は母数となる人口が多すぎて有効ではなさそうです。そう考えると中国政府の「焦り」が垣間見えてくるような気もしてきます。

次回からは、予告のY国や別の大陸の話、黒鳥の話の予定です。数回かかる見込みです。。

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