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卒業しました

2012年06月10日 22:05

2年間のMBA留学を終え、日本に帰国する空港ターミナルでこの最後のエントリを書いている…

というのが、過去に読んだいくつかのMBAブログでのカッコイイ終わり方で、私も憧れていたのですが、残念ながらいい加減な性格が災いし、卒業後3週間ほど経った雨の東京で、ダイニングテーブルを前にタイプしているのが現実です。

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このブログを2年前に立ち上げた時には、MBAの授業での学びについて書くことで、自分の頭を整理しつつ、MBAやビジネスに興味がある人に情報をシェアしようと考えていました(それで留学ノートというタイトルにしました)。ところが実際に授業を受け始めてみると、ブログ記事という限られた文字数と、限られた時間の中では、どうしても薄っぺらい内容になってしまうことに気づき(要は力不足)、結果的にMBA留学中に考えたことや留学生活について書くことにしました。今読み返すと恥ずかしい記事も少なからずあるのですが、そう思えるようになったのも留学を通じた成長と思うことにして、そのままにしておくことにします。

先日ツイッターでMBA留学の価値や費用対効果について活発な議論がありました。

費用対効果の分母となるコストは、学費+各種生活コスト増加分で約1000~1500万円、それに加えて(私費の場合)留学中に得られていたはずの給与や、それをきっかけに配偶者が退職するとその給与など、合計すると軽く3-4000万円+になります。首都圏でマンションが買えてしまいます。

一方で、分子となる効果の方は、もう少し複雑です。まず、MBAで得るスキルや人的ネットワークによる将来の所得増加というのが、多くの人が合意できる効果でしょう。MBA留学の費用対効果に懐疑的な人には、かつて日本人MBAが卒業後に高給を得るメインのルートだった外資金融・コンサルへの就職が困難になったことを指摘する人が少なからずいるようです。しかしながら、MBAで得られる効果(効用)はこれだけではありません。中・長期的に役立つようなリーダーシップ等の抽象的なマインドセットへの影響、様々な価値観に触れることによって視野が広がる、純粋な知識欲が満たされる、新しい友人と知りあうことによって人生が豊かになる、等等。MBAホルダーから自分の留学を後悔する発言がほとんど聞かれないのは、この部分が大きいからではないかと思います。

私も同様で、留学したケースとしないケースを厳密に比較することはもちろんできませんが、トータルでの満足度は十分に高い2年間でした。

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もう一つ、留学中に盛んだったのが、日本人留学生の「減少」に関する話題です。そもそも、本当に減っているのか、留学先の地域が変わっただけではないのか、という議論もありましたが、米国MBAについて言えば、間違いなく大幅に減っています。これについては、以前にこのブログでも書いたとおり、MBAホルダーが多ければ同じ知識ベースを共有しているビジネスパーソンによるネットワーク効果が期待できるので、人数が減るのはその点でマイナスです。

とはいえ、今後ビジネスのグローバル化はさらに加速し、それに伴う所謂「グローバル人材」への需要も高まるでしょうから、需要と供給の関係でいけば、日本人(米国)MBAホルダーの減少は、私個人にとってはプラスに働くかもしれません。

卒業後ですが、私は幸い、希望通りしばらくアメリカに残って、今度はビジネスパーソンとしてアメリカの企業と市場に向き合っていくことになりました。ビザを取得したら渡米です。仕事内容も、留学で学んだことを直接活かせるポジションなので、間違いなく大変でしょうが、楽しみです。

拙いブログでしたが、これまで読んでくれていた方々には感謝しております。お陰様でなんとか卒業まで続けることができました。ありがとうございました。駄文が何かの「足し」になることがあったとしたら幸いです。

おしまい
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地上戦と空中戦 ~M&Aの授業

2012年05月13日 06:09

MBA2年目の後期はM&Aの授業を取っていました。今年のバブソンでは、前期と後期で違う講師が、それぞれ中規模企業(売上$10-500M)を買収対象とした授業と、小規模企業($10M以下)を買収対象とした授業を行いましたが、どれも生徒の評判がかなり高い人気授業でした。

私が取った中規模企業対象の授業は、午後と夜に同じ授業が二回行われており、午後は主にフルタイムMBAの学生で50名が受講していた一方で、夜間は受講生15名のうち、半数以上が働きながら通う夜間プログラムの生徒で、全体の過半数が投資銀行や企業のM&A部門で実務経験を持っていました。

   
[授業で使った教科書。私のような素人にも分かりやすかったです]

一方、私は顧客企業の自前での売上向上やコスト削減の支援を、ITを使いつつ行ってたので(実は他にも職歴ありますが)、これまで仕事で企業買収を取り扱ったことはありません。なのでバックグラウンド的には少数。

さて、ここから本題。以前ある人から、M&Aに関わる仕事を2種類に分類しているという話を聞いたことがあります。彼が「空中戦と地上戦」という面白い表現をしていたので、印象に残っています。

空中戦というのは、買収企業のバリュエーション(価値算出)や、買収資金の調達スキームを検討しながら、取引を成立させる仕事を指しています。一方で、地上戦は、企業を買収した後に、その企業を立て直したり、買収した企業に統合したり、新しい戦略を適用したりする仕事を指します。米国では、新たな経営者を外部から雇って、被買収企業の経営を任せることも珍しくありません。

私は自分が企業の成長を支援する仕事をしてきたことや、周囲に買収後統合(Post Merger Integration)に奮闘する人が何人かいるので、地上戦のイメージは沸くのですが、空中戦はだいたいのことを頭で理解しているだけでした。そのため、授業で空中戦を主戦場にしている学生(年齢は20代~40代まで様々)の考え方に触れるのは、非常に新鮮でした。15人の少人数クラスで、グループワーク中心の授業スタイルだったので、なおさら生々しい意見に触れられたのかもしれません。

率直に言うと、やはり自分とは思考回路がかなり違う印象を受けました。

もちろん、実際の買収案件で使われた資料を用いて買収提案を考える授業スタイルといっても、所詮は教室でやってる授業だから本当の取引と違って単純化しているのだ、というのはあると思います。しかし、それを差し引いても、企業を(良くも悪くも)一つの商品として扱い、必要なビジネスや人材と、不要な部分を冷徹に切り分け、価値(=金額)を算出する割切りの良さは、見ていて清々しくすらありました。プロの料理人が魚を捌くように、手際良くざくざく処理して、買収提案の一丁上がり!という感じ。特に、同じグループだった自信満々の若手バンカーは、私にとっては未知の生物で、興味津々で観察していました。

そんな彼らの感覚は、買収したアメリカ企業に送り込まれている日本企業ビジネスマン達の話や、私がビジネスの現場で見てきた風景、そして授業に来た地上戦のスペシャリスト(=送り込まれるプロの経営者・ターンアラウンドマネージャー)の語り口とは、かなり違うように思います。空中戦のパイロットは、あるビジネス・業界を末端まで理解している訳ではないし、空中戦だけを行なってきた人にとって、事業統合や変革のリアリティを理解するのが簡単ではないのは、想像に難くありません。

事業会社が他企業を買収する場合には、経営者が司令官となって、空中戦なパイロットと、地上戦なソルジャーの両方をうまく使うことが大事なんでしょう。しかし、現実には、パイロットを全能の専門家と勘違いして(*)、司令官が指揮権を放棄してしまって、後に投入されたソルジャーが泥沼の戦いへ…なんて話も、珍しくないのだろうなどという思いを馳せつつ、私は授業を受けていました。

講師が、空中戦と地上戦両方で長い経験を持った人だったので、きっと買収に関わるこういう側面を考えさせるように授業がデザインされていたのだろうと思います。学びの多いクラスでした。

(*)この辺は、金融出身の著名ブロガーさん達が、いかにも世の中の仕組みを分かってる風に他業界について書いたものを有難く読む人がいるものの、実は、その業界の人から見たら全然的外れだったり浅すぎる話だったりするのと根が同じように思います。

ジョブズのプレゼンも、入念な準備と練習の結果なのだから

2012年03月02日 16:45

今学期はプレゼンテーションの授業を取っています。正直なところ、同じ時間をファイナンスかアントレの授業に充てるか迷ったのですが、結果としては「アタリ」でした。参加者は10名ほどの少人数クラスです。

授業の方法論は、事前に教科書を読む→教授が(手短に)解説→各自が毎回3~5分程度のプレゼン+質疑応答→他の生徒全員から無記名のフィードバック+教授から詳細評価→家に帰ってビデオ録画を確認→ウェブサイト上に感想を書いて教授と対話、といった流れです。

プレゼンのお題は毎回変わり、ここまで「顧客向けセールス」「社内重役向けプレゼン」「ストーリー重視で共感を得るプレゼン(スライドにタイトル以外の文字禁止)」「データ重視のプレゼン」がありました。

現時点で開始から6週間ほど経過したのですが、最初と比べて、全員のプレゼンが面白いくらいにレベルアップしています。私も直近の回で、これまでで最も良い評価を貰うことができました。

「アメリカ人(欧米人)はプレゼンが上手い」と言われますし、私も日本人に比べると平均レベルは遥かに高いと思います。


[現バブソン学長Len Schlesinger。この人の中盤から後半に向けて盛り上がる熱いプレゼンは私の目標の一つです]

そこで気になるのが、上手い理由です。アメリカ人は外向的で物怖じしない性格だから上手い、というイメージで語られることが少なくないですが、それは確かに一要素ではあるかもしれませんが、それだけだと大事なポイントを見逃してしまうように感じています。

つまり、この授業で私達がやっているように、適切な方法論に基づいて、きちんと練習した結果、聴衆に響くプレゼンができるようになっている、というのが大事なポイントです。

冒頭でいかに聴衆の関心を引き、自分の話が聞く価値のあるものかを示し、話の途中でも関心レベルを保持し、聴衆が聞き終わった後に行動することを促せるか。アメリカでは、それを一つ一つ、真剣に考えた末にまとめられた方法論が多くの人により整理され、書籍として出版されてもいます。

プレゼンの上手いアメリカ人の多くは、それらを若いころから(能動的か受動的かはさておき)学び、練習して、響くプレゼンができるようになっています。天性の才能や、文化的なものだけではありません。有名なスティーブ・ジョブズですら、事前の綿密な準備と練習が、あの自然で印象的な振る舞いを可能にしています。

テクニック、というと日本では小賢しい印象を持たれることもあるように思います。しかし、想いを正確に伝え、共感を生むための技術を身に付けることに努力を惜しむのは、怠慢であるとも言えるのではないでしょうか?この辺りは日本企業がマーケティングを軽視して苦戦していることも彷彿とさせますね…。

ということで、まだまだ修行の足りない私が言うのもおこがましいですが、人を動かすプレゼンをしたいと思ってらっしゃるのであれば、ぜひ下記の書籍を読み、(ちょっと恥ずかしいですが)友人等に頼んでアドバイスを貰ったりビデオで復習してみてはいかがでしょうか?

・授業で使っている本
  

・その他のお薦め本
 

授業メモ:Leading and Managing Change (チェンジマネジメント)

2011年09月25日 14:40

秋の集中講義「Leading and Managing Change」を受けました。以前から受けたかった人気教授J.B.M.Kassarjianの講義です。彼は生徒から「Professor」と呼ばれると必ず「J.B.でいいよ、J.B.で」と返す気さくな先生です。(ゲロッパ!)

世界競争力ランキングで有名なスイスのIMDでも教えていることもあってか、2.5日の講義で使った10本のケーススタディの多くがヨーロッパが題材です。そのうちの1本、彼が書いた90年代のソニーのヨーロッパ事業に関するケースは、チェンジマネジメントのケースとして過去に受賞もしている定番です。

多くのケースディスカッションを通して、企業の変革にあたって大事な要素を数多く、かつJ.B.の熱い解説によって(教室内の議論とはいえ)実感を持って学ぶことができました。理論的な枠組みも用意されてはいるのですが、むしろ変革期の各ステークホルダーの心理面(JOLT=突然の激しい動揺、という言葉を多用されてました)を重視したアプローチに、あくまで現実的なスキルとして、チェンジマネジメントを教えるという強い意志を感じました。(元産業再生機構COOの冨山和彦さんの著書からも似た印象を受けます。)

J.B.の熱い講義の様子の一端はこちら。これは他校(学部?)の様子で、バブソンMBAではもっと少人数です。



70歳代だと思うのですが(ハーバードで教えていた時にマイケル・ポーターが教え子だったそうなので、そういう世代)、このテンションで朝9時から夕方5時まで教鞭を取るエネルギーには恐れ入ります。


この講義を通して学んだことの中で印象に残った言葉の一つが、「多くの変革が失敗に終わるのは、変革後のビジョン(Destination)が間違っているからでも、そのビジョンを実現するための手段・道筋が間違っているからでもない。優秀な人達はそれらをきちんと計画できる。失敗は、それらをスタート地点(where we are)と結びつける時に起こる。これは簡単なことではない」。

この言葉は、いわゆる頭でっかちなMBA卒がビジネス復帰後に起こしそうな初歩の過ちから、もっとハイレベルなチェンジマネージャーが硬直化した巨大組織を変革する時に直面しそうな状況をよく表していると思います。また、ビジネスだけでなく国家レベルの政策にも当てはまりそうです。日本が今、やらねばならないことは、かなり明確になってきています。問われているのは、我々の現在地を理解した上で、それを実行に移すのにどうすれば良いかということ。

ここを突き詰めていくと、関係者の心理面を深く理解する必要性に繋がっていくのだと思います。J.B.は、例えば変革の状況を場合分けして、状況による違いを議論するなどして、卒業後にそういう状況に直面する学生に知恵を与えて送り出そうとしてくれていました。実際、たった2.5日のことでしたが、明らかに今後の自分に役立つと感じられる集中講義でした。

他にもいくつか言葉を紹介しておきます。

・文化を変えることで変化を起こそうとするな。文化というのは実際に何かを具体的に成し遂げることによってのみ作られるものである。手段ではない。

・先に全てを決めてしまわないこと。実行しながら、出てくる声によく耳を澄ませて、素早くアジャストしていけ。

・自分のリーダーシップのパターンを現実的に正しく理解する勇気を持て。そして自分のキャラクターを活かして自分の言葉で語れ。誰かの真似をしてもうまくいかない。

・過去の成功体験が大きいほど、変化への抵抗は大きくなる。危機の状況が誰の目にも明らかになった頃には手遅れのことが多い。それを防ぐには、早い段階でいかに説得力のある客観データを組織に持ち込んで危機感を共有できるかが大事。


最後に。ソニーのケースを書かれたり、他の日本企業にも関わってこられたJ.B.。ある日の授業の後に教室で雑談していると、「日本は大変なことになってるね。早く手を打たないとまずいよ。卒業したら頑張って日本を変えてくれよ!」とJ.B.。私はちょっとおどけて「Hopefully(もしできるものなら)」というような言葉で返しました。そうすると、「冗談じゃないんだよ!日本のことは大好だから、本気で言ってるんだよ!」。芯から優しい、尊敬できる教授です。


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