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トップ・ハードラーとアントレプレナーシップ

2012年04月05日 14:21

ツイッターで流れてきた陸上の為末選手の言葉。

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これって、非常にEntrepreneurial(企業家的)なプロセスだな、と思ったわけです。

「偶然出る会心の動き」

不確実な試みにおいては、行動してみないと、何が優れた方法かというだけでなく、どこが真に目指すべき所(市場・顧客)かすら分からない。事前に全てを計算して、確実な方法を編み出すことはできない。試行錯誤する中で、成功の芽が一瞬見える時がある。

「偶然を出すためには自分への揺さぶりと遊びが大事」

行動するといっても、ガチガチに固めた方法論や組織では、アプローチの多様性が不足して、予想外の成功が起こりづらい。適度な「ユルさ」はむしろ必要。また、予期せぬ成功を感じ取る柔軟さも大事。

「後からたぐり寄せて再現性を持たせようとする」

その小さな成功を分析し、成功した要因を特定、それを今後の行動に落とし込む。

起業や新規事業、野心的な取り組みを行う際に確率が高いとされる行動様式と、面白いくらいピタリと一致しています。まさにアントレです。

スポーツから、ビジネスが学べることというのは少なからずあって、私も為末選手のツイートから日々刺激を受けています。アーティストや軍隊から学ぶビジネスパーソンもいます。

異なる分野の方から思考の糧(Food for Thought)をもらうには、ツイッターは革新的なツールですね。面白い話をしてくれる人がその空間にいつまで居てくれるか、というのはありますが、今は恩恵に浴しています。よくツイートで厳しい意見言ってゴメンナサイ>ツイッター社。
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起業したいなら、リスクテイクする勇気を奮い立たせるより、起業リスク耐性を高めよう

2012年03月23日 12:15

起業というのはハイリスク・ハイリターンな行為で、成功した場合の金銭的な報酬が大きい一方で、失敗した場合には多くを失ってしまう。だから、起業家は(事業の成否に関わらず)リスクを取った勇敢な人である、という風に考えている方も多いのではないでしょうか?

photo (1)
[シリアル・アントレプレナーでZynga共同創業者のMark Pincus氏]

私も以前はそうでした。でも、留学してから多くの起業家の話を聞いたり、事例に触れるにつれて、考え方が変わってきました。

例えば、先日HBSのカンファレンスで講演した、有名ベンチャー・キャピタリストのアルフレッド・リンはこのように語っていました。「過度に楽観的な(overly optimistic)起業家が成功することはない。注意深く楽観的(cautiously optimistic)であることが大事」(アルフレッド・リン--有名ベンチャーキャピタリスト)

また、ドラッカーは著書でこのように言っています。「企業家として成功した人を大勢知っているが、リスク志向の人はいなかった」(P.F.ドラッカー)

もちろん起業に失敗はつきものです。事実、ベンチャー起業のほとんどは、数年でリターンを産まずに姿を消します。

しかし、起業家本人が、自分自身の将来を掛けて、例えば失敗したら路頭に迷うプレッシャーの中で起業しているかというと、そういうパターンは稀のように思います。多くの場合、事業が失敗したとしても、本人はきちんとした生活を送れるようにしているからです。

起業が失敗しても、経済的に困ったことにならない力を「起業リスク耐性」と、ここでは呼びます。私の印象では、実際に起業している人は、この起業リスク耐性が高い場合が多い、というか、ほとんどです。

起業リスク耐性を高める要素としては、以下のようなものがあります。


1. 親族の経済力

親が経済的に豊かであれば、いざとなった時に頼ることができます。また、親が事業家の場合、ベンチャーに失敗したらそれを継ぐ、という選択肢がリスクヘッジとなっているパターンも多いです。

リスク耐性とは別の話になりますが、この場合は自分のベンチャーに資金提供してもらえる可能性があるので、起業の実現性はさらに上がります。(バブソンはこのケースが結構多い印象)

2. シグナリング効果

超有名大学(例:ハーバード、スタンフォード)を卒業している、または有名戦略コンサル・投資銀行・PE等の出身である。これらの場合、ベンチャーで失敗した後に、高収入の職業につくことが容易。

3. 貯蓄

十分な貯金があれば、事業に失敗しても生活に困ることはありません。上記のコンサル・金融業界で若くして数千万円程度の資金を貯めるのは、一石二鳥。

4. 配偶者の稼ぐ力

配偶者が安定的に(高)収入を得ていれば、もう一人がリスクを負いやすくなります。

5. 若さ

若ければ若いほど、やり直しが利きやすいため、起業リスク耐性は高まります。学生ベンチャーはこれに当てはまり、ほとんどノーリスク。元手がほとんどかからないアプリ開発等で起業して「IT起業家」と名乗れば、(事業のレベルに関わらず)就職活動、合コン等で有利に働く。

6. 人的ネットワーク

「失敗したら俺のところで雇ってやるから」と言ってくれる人がいれば、思い切ってチャレンジできます。梯子を外されたり、その人自身が窮地に陥ってしまわないかは注意ですが。特定のコミュニティ(ベンチャー界隈等)において、何らかの分野で高く評価される存在であることも有効。

7. 実力

自分はどこでも食っていける、と信じられるスキルが、勘違いでなく身についていれば、再就職も難しくないはずです。

8. 資格

弁護士、公認会計士、医師のような独占業務資格は強力なリスクヘッジとなります。

9. 低い生活レベル

生活に必要とされる金額を低く保っておけば、起業リスク耐性は高くなります。この点で、専業主婦、子供の存在はマイナスです。もちろん人生にとっての価値は別です。


ということで、自分も起業したいという人は、成功した起業家のリスクテイクを讃えるよりも、上記の要素を参考に、自分の起業リスク耐性を高める戦略を立て、努力するのが良いのではないかというのが、今日の結論です。はい。


(注)上記は、外部から資本を調達したり、自己資金で起業するケースを想定しています。自分の資産を担保にお金を借りてハイリスクな事業を始める、という場合には当てはまりません。そのあたりでも、日本では多くの誤解があるように感じています。その辺は、まずは磯崎氏の『起業のファイナンス』を読むところから始めるのがお勧めです。

グーグルのイノベーション・モデルは失敗に終わったのか?

2012年03月18日 06:10

私は、多くの人と同様に、グーグルの様々なサービスのお世話になってます。検索はもちろん、プライベートのメールはずっとGmailだし、マップも日常的に使うし、Youtubeはもちろん、写真等のデータ保存用に微々たる金額ながらも有料で保存容量を拡張しています。

昨年グーグルのキャンパス(オフィスのこと)を訪れた際にも、お忙しい中、社員の方に丁寧に案内してもらいました。(当時の記事:シリコンバレー企業に見る企業の成長ステージ ~TwitterからFacebook、そしてGoogleへ

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グーグルはイノベーティブな会社の代名詞であり、IT業界で働く者として憧れの的であり続けてきました。しかし、最近は賞賛一色だったトーンにも変化の兆しが見え始めており、私も少し厳しい見方もするようになってきました。今日はその辺りを書いてみます。

先日ゴールドマン・サックスを辞職した幹部がニューヨーク・タイムズに寄稿した古巣批判の文章が話題になりましたが、同じ頃、グーグルを去った幹部による、このようなブログも話題になりました。

Why I left Google (原文 | 日本語訳)

ごく簡単に言うと、グーグルがフェイスブックに対抗するためにSNSに経営資源を集中する方針を明確化した結果、以前ほど自由にやれなくなった、というのが辞職の理由です。

これを読んで、私はかなり違和感を感じました。例えばこの部分。

広告収入のお陰で我々には思考・技術革新・創作に励む頭の余裕があったし、App Engine、Google Labsのようなフォーラムとオープンソースを土台に我々なりの発明をすることができた。それもこれも全部広告の金で賄われてるとは誰も意識してなかった

グーグルは事業別収入を明らかにしていませんが、未だに大部分が検索や他のサービスに連動して表示される広告からの収入と言われています。ワイテカー氏は、エンジニアは革新的なサービスを生み出すことに集中して、お金のことなど考えて来なかったのを誇らしく、そして理想的に語っています。私もそういうエンジニア魂は理解できるところもありますが、あまりにもナイーブ過ぎる印象も受けます。

今でも収益の大部分が検索連動広告であるならば、自由な社風からイノベーションの種は生み出されたかもしれませんが、ほとんどがビジネスとして大きく花開くところまで至らなかったということです。(MBA的に言い換えるとValue Creationはある程度できているが、Value Captureできていない)

そもそも彼が「イノベーション製造マシン」と呼ぶグーグルが生み出してきた「コンテンツ」のどれだけが、グーグル内部から生み出されてきたのでしょうか?確かにGmailは内部から生み出された革新的コンテンツです。しかし、Maps、Youtube、Docs、Picasa等は、全てグーグル外のベンチャー企業を買収することによってスタートしています。もちろん、元のアイデア・プロダクトを洗練させていく作業でグーグル社員の多大な貢献があっただろうことは想像できますが、それはイノベーションと言うよりカイゼンという方が近いように思えます。

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グーグルはコーポレート・アントレプレナーシップ、イノベーションのショールームでした。最優秀な人材を大量に採用し、想像力を刺激するような最上のオフィス環境を提供し、有名な20%ルールで自由な環境における個人の創造力を信じ、そこから生まれたプロジェクトにコーポレート・ベンチャー・キャピタル的に(広告収入で稼いだ)キャッシュを投資してきました。グーグルの昨年のR&D費用は約50億ドル(4000億円)で売上の13%に達します。

しかし、その結果として、社内から革新的な「コンテンツ」が生み出され、それがグーグルの収益に大きな貢献をするようになったかというと、微妙なのではないでしょうか?少なくとも外から見ている限りでは。

コーポレート・アントレプレナーシップで頻繁に出てくる話に、「新事業と、会社の戦略との整合性を考えよ」があります。会社の現在の事業と一致している必要はないのですが、戦略に沿ったものでないと上手く行かないということです。グーグルの場合は、どうだったのでしょうか?

長く続いた一面的なグーグル礼賛をそろそろお終いにして、冷静な検証に入るタイミングなのかなと思う今日この頃です。ただ、僭越にも厳しい書き方をしましたが、私はグーグルを批判するつもりはなく、むしろ「グーグルをもってしてもか…」という心境です。

(補足)引用したブログで言及されている「コンテンツ」に焦点を当てたので、クラウド関連については、意図的に触れていません。いずれにしても、クラウド関連は検索から派生した技術開発なので、今回のエントリーで語っているコーポレート・アントレ/イノベーションの観点からは、とりあえず置いておいていいかなと考えました。

読書メモ:『Corporate Venturing』 ~新規事業開発を体系的に網羅

2012年03月13日 13:01

最初に断っておきますが、私もざっと全体に目を通しただけで、精読できていません…。だったら、きちんと読んだあとにブログにアップすれば良いんじゃないかと言われてしまいそうですが、いつになるか分からないので、一旦アップすることにしました。

こんなフライングをする気になったのは、(読んだ範囲では)非常によくまとまった良書だからです。新規事業の必要性から、着手の仕方、アイデアから事業開始までのプロセス、企業文化や社内政治、事業責任者の心得まで、大企業での新規事業を取り巻く要素を一通り網羅しています。内容的にも、奇をてらわずバランスが取れているので、刊行から20年近く経った今でも、変わらず役立ちそうです。

 
[左が日本のアマゾン、右が米国のアマゾンへのリンクです]

ところで、面白いと思ったのが、新規事業を行う理由の日米企業比較(p.20)です。強い動機となっているのが「既存事業の成熟」米70%-日57%、「戦略的目標達成のため」米76%-日73%、というのは日米共通なのですが、「雇用を創出するため」米3%-日24%、「マネージャーにチャレンジさせるため」米46%-日15%、からは、両国企業のマネジメントの違いが垣間見えるようでした。

ダルビッシュもアップルも、もう少し長い目で見てあげましょうよ

2012年03月09日 11:20

昨日(3/8)は2つのデビューがありました。

一つはテキサス・レンジャーズに入団したダルビッシュ投手のオープン戦初登板です。



2回2安打0失点という数字だけを見るとまずまずですが、内容的にはホームラン性の二塁打含め、打者に捉えられた打球が目立ちました。そのため、フェイスブックのMLB公式アカウントには、「期待はずれ」「大した事ない」といった米国野球ファンの厳しい言葉が並んでいました。

もう一つは、アップルの新iPadの発表です。



こちらもジョブズ氏亡き後、初めての製品発表の場とあって注目が集まりました。しかしながら、新iPadがiPad2の画面表示と処理性能を中心とした改善ベースの製品だったため、「がっかりした」といった声が多く、中には「イノベーションのジレンマに陥ってる」といった分析さえありました。ジョブズがいなくなったアップルを不安に思う心理が蓄積していた分、「やっぱり!」という感じでしょうか。

とはいえ、私としては両方、もう少し長い目で見てあげようよ、と思っています。

ダルビッシュに関しては、まだオープン戦序盤の調整段階です。先発ローテーション入りが確定している投手ですから、結果よりもストライクゾーンや、各球種に対する打者の反応を試すための登板です。わざと危険と思われる球を投げることもあるでしょう。映像を観ると、日本のファンならば100%の力で投げてないことは容易にわかるはずです。もちろんファンには自由に批評する権利があるので、いろいろ言って楽しむのは全然OKなのですが、真剣に何かを判断するのは時期尚早です。

アップルについても同じです。ジョブズがいなくなった影響がどうこう、という人は製品開発プロセスをもう少し考えてみると良いと思います。ジョブズ死去が昨夏ですから、約半年後に出荷される今回の新iPadの設計・開発は、その時点でかなり進んでいたはずです。なので、驚くべき機能がないのは、別にジョブズがいないからではないと考えるのが自然でしょう。

そもそも、過去のアップルにしても、毎回の製品発表ごとに破壊的イノベーションとなるような製品を出していたわけではありません。そんなことは不可能です。Mac Book Airにしても、iPhoneにしても、過去のiPadにしても、その登場後、何度も持続的イノベーション(改善)を重ねて完成度を上げています。

ですので、世間におけるジョブズの神格化というか、ハイプが浸透しきっているなぁ、クックCEOも想定内でしょうが大変だなぁ、と思うわけです。(もちろん、分かっててお祭り気分で楽しんでる方もいるんでしょうけどね。)

今後、ダルビッシュや、クックCEOはじめアップル社員の方々が、フライング気味の批判を跳ね返す活躍をされることを期待しています。

(おまけ)
プレゼン力に関しては、ジョブズがいないことによるレベルダウンは否めないかもしれません。ユーザー体験より技術スペック寄りという印象を与えてしまう内容になってしまってますし、クックCEOもちょっと暗い。このマイクロソフトCEOスティーブ・バルマー的要素を1%くらい加えたらどうでしょうかね。(2%だと多すぎる)



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