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開発(援助)とビジネスのマリアージュ ~ソーシャルアントレ、NPOのプロボノ活用等を添えて

2011年12月05日 16:00

私は大学学部を開発学(Development Studies)専攻で卒業しました。開発学というのは響きからして曖昧な分野でよく「?」という顔をされるのですが、平たく言うと途上国の発展を扱います。そして、その分野が発展してきたのが先進国側だったことから、開発援助という視点を色濃く反映してます。学部時代はそんな勉強をしながら、数か月間ケニアで教育NGOのインターンしたりしていたものの、その後は民間からODA(政府開発援助)に関わり、その後はさらに援助とは関係ないビジネスへと、一見どんどん遠ざかる方向に進んでいます。でも本人は必ずしも遠ざかっているとは考えていません。負け惜しみ(?)じゃなく。

そこには、私が学部生の頃から、ビジネスの持つエネルギーや仕組みは、20年以上前から「援助疲れ」という言葉がある開発(援助)の突破口になるんじゃないかという想いが一貫してありました。(当り前といえば当たり前なのですが、かつてのNPO界にはビジネスによる介入=悪!搾取!という人も少なくなかった)

とはいえ援助業界から離れて何年か経ち、不勉強もたたって業界トレンドに疎くなっていたのですが、ふと今春ハーバード・ケネディスクール(行政大学院)で行われた国際開発会議に出席してみました。そして、そこで想像以上にビジネスと開発(援助)の距離が近くなっているのを目の当たりにしました。

また、MBAでもソーシャル・アントレプレナーシップというのが一つの領域として市民権を得ています(その定義が曖昧だとしても)。同級生の卒業後の進路が乳がんに関するNPOの設立だったり、非営利団体への就職を考えていたりします。

ただ、「おお、自分が想像していた通りの展開!」と多くの人が同じ考えだったことを忘れて自画自賛する暇もなく、いくつか気になることが出てきました。

まずはソーシャル・アントレについて。ビジネスの論理と力で持続可能な開発を、という考えは分かりますし、基本的には賛成です。外部からの援助に頼った事業や組織の脆弱性や、依存心のような副作用は何十年も言われ続けてきたからです。

ただ、ビジネスと言うのはポジティブに働かす力も強い一方、ネガティブなインパクトも弱くありません。ソーシャル・アントレ(繰り返しますが定義曖昧)の名のもとに、その社会への、ともすれば取り返しのつかないネガティブな影響への配慮に無自覚な人達が次々と事業を行う様に、非常に僭越ながら懸念を感じた次第です。社会開発といった分野を学んだ人であれば、善意の支援が正反対の結果を生み出すことが珍しくないことを知っているからです。

次に、ビジネス人材・組織によるNPO/NGO支援について。こちらも今は珍しくなくなっています。下記リンクのように、大手コンサルがNPOセクター向け事業を展開したり、また各分野のプロフェッショナルが個人でNPOを立ち上げたり支援することも珍しくなくなっています。

大手コンサルティング会社によるNPOセクターへのビジネス展開
慈善事業はビジネスのように運営されるべきか?(WSJ:英語)
うちにMBAがやってきた ー プロボノMBAの効果的な使い方

こちらもまだ成熟期には遠く、各地で多くの悲喜こもごもを引き起こしているようです。上記リンクの「うちにMBAがやってきた」では、半分ちゃかしながらも、その様子がつづられています。この文章はとても面白いし良い文章だと思うのですが、私は一部違和感を感じるところがありました。

この文章の著者はたびたび「戦略」という言葉を使います。必要な情報を収集し、戦略を立てて、実行するのだ、と。私はこのこと自体がビジネス(MBA)的な考えを、NPO的な文脈にうまく適応させられていないと感じます

単純化して言えば、営利企業の目標は利益を生み出すことです。もちろんその過程で社会に貢献するのですが、企業の目的はあくまで金銭的な利益を生み出すことであり、事業の成否は金銭で測られます。それは基本的に全ての企業に共通しています。良くも悪くも。

一方、NPOの場合は、当然ながらその成否を金銭で測ることはしません。では何をもって?それはそのNPO自身が決めることで、そのNPOが持つビジョンであり、価値観(バリュー)です。それがあって、やっとそのビジョンを達成するための戦略論に移るのが筋です。

私自身もMBAの選択科目として途上国NPOに対するコンサルティング事業を取り、実際に現地調査を含むリサーチや分析、提案活動を行う機会がありました。その際にも、拠り所は当該団体のビジョン・バリューでした。行っている事業がうまくいっているかどうかは、それらを実現する方向にきちんとベクトルが向いているかが物差しとなります。逆に言えば、ある結果を生み出している事業があったとして、それが団体Aにとっては成功であっても、団体Bにとっては失敗、ということが有り得ます。だから、ビジョン・バリューがきちんと定められ、共有されていることが非常に重要です。

ここが決定的に営利企業とNPOで異なるところです。

言い方を変えれば、ここがNPOがビジネスの組織・人材を使いこなす際のポイントになります。明確で簡単にはブレないビジョンやバリューを用意すること。そこをしっかり固めて伝えれば、優秀なビジネスの人間は戦略の策定や実施、評価に力を発揮してくれるのではないかと思います。
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読書『ブルー・セーター――引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語』

2010年05月11日 08:41

以前の記事で書いたジャクリーン・ノボグラッツの著書『ブルー・セーター――引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語』を読了。

社会起業家である彼女の半生と、無力と思われがちな途上国の人々(主に女性)が、機会を与えられれば成功し、社会をの発展に貢献していけるのだ、という信念を綴った本。

彼女は大学卒業後、チェースマンハッタン銀行に就職、順調に過ごしていたがその後、世の中を変える仕事をするためにアフリカに渡り、国際機関などの職員として、挫折を味わいながらも、いくつかの成功事例を作ります。そしてルワンダでは現地のベーカリーのビジネスを支援して成功を収めるのですが、アメリカに帰国後、あの大虐殺が起こります。その後、様々な教訓や思いを胸に、アキュメン・ファンドという、途上国の成長を支援する投資ファンドを立ち上げ、現在に至ります。

私は大学で開発学を勉強していたころから、援助ではなく、ビジネスの力で途上国の生活を改善できないだろうかという問題意識を持っていました。当時、そのような声はまだ主流ではなく、マイクロクレジット(その後、ムハマド・ユヌスのノーベル賞受賞で世界に知られる)の事例が語られ始めた頃でした。

そして現在。ビジネスと社会貢献の境目がどんどん曖昧になって、両者を融合させようという動きが盛んです。その合間にいるものには、BOP(Bottom of Pyramid)ビジネス、マイケル・ポーターの戦略的CSR、社会起業(Social Entrepreneurship/Business)、そしてアキュメン・ファンドなど様々で、隔世の感があります。

『ブルーセーター』は理論の本ではなくカラフルな物語で、読み物としても面白いので、これからMBAでSocial Entrepreneurshipを学んだり、この分野に興味がある方には入門書としてもお薦めです。そしてなにより彼女のエネルギッシュさが刺激的です!

ジャクリーン・ノヴォグラッツ氏と語る会

2010年05月02日 11:15

ビジネスの手法を用いて開発途上国の貧困問題の解決を図るベンチャーファンド「アキュメンファンド」の創始者兼代表ジャクリーン・ノヴォクラッツ氏が来日し、対話会を開くということで参加してきました。対話会は50人限定だったのですが、応募が400人超あったらしく、彼女の事業への関心の高さを感じました。
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アキュメンファンドの特徴は、貧困問題に対するアプローチとして、慈善活動と市場メカニズムをミックスしたアプローチをとっていることにあります。まず①世界中から寄付を集め、②寄付金を途上国で社会的な意義のあるビジネスに投資し、③得たリターンを別のビジネスに再投資します。投資対象は保険医療・水・住宅・エネルギー・農業分野のビジネスで、2009年末時点で36件、総額3770万ドルの投資案件があります。ベンチャービジネスも含みますが、最終的に100万人超にインパクトを与えることが一つの基準となっているようです。

つまり、慈善活動をインプットとし(①)、ビジネス的なアプローチで社会の変革を促進する(②)というスキームです。

ビジネス的とはいえ、このような投資は長期的な視点で見ていく必要があるため、彼女が「忍耐強い資本(Patient Capital)」と呼ぶ10~15年単位の長期投資を行います。また、社会的な意義があっても金銭的なリターンが少なくなる可能性があるため、それを受容するような資本が求められます。

きっと彼女は普通のビジネスとして成立するのであればマーケットに任せるように考えると思いますが(彼女はもともとチェースマンハッタン銀行で働き、スタンフォードでMBAを取得しています)、通常の資本市場ではこのような概念を受け入れるマネーを調達するのが難しいため、慈善と市場をミックスしたアプローチ取り入れたのでしょう。

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私はアキュメンファンドについてそれほど詳しい知識を持っていなかったので、慈善をインプットにして、ビジネスベースの投資(事業)を行うことにしっくりこないものを感じていたのですが、知れば知るほど彼女はそのあたりを十分に理解したうえで、微妙なバランスの上に成り立つ事業設計を行ってきたんだろうな、と思えてきました。いろいろ考えられさせられたし、勉強になった会でした。


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